トリコの予後

こんばんは。

今日も精神科病棟は大忙しです。精神科病棟と言っても私は大学病院に勤めているので、これまた難治例、重症者が多いです。

 

【自殺者数急増⇧】

そして、コロナになってから自殺者の数が急激に増えましたね。特に小中高生は1980年以降最多の440人になってしまいました。

残念なことです。助けになれたら良かったのに…特に学校関係は、休校や再開を繰り返しています。一般に、夏休み明けの自殺率が高いと言われていますが、今年度は夏休みだけでなくコロナ休校もあり、休み明けのタイミングが今年は多かったのです。さらに、家族とあまりうまくいっていない学生さんは、休校になり自粛を求められることで家族と過ごさなければならない時間がグッと増えてしまいますね。今まで外で何とか気分転換を図りながら生活の均衡を保てていた人も、それが叶わず窮地に追いやられてしまったことでしょう。

 

トリコファイターも様々なストレスなどがきっかけで発症しているため、うつ等との関連も少なくありません。うつと自殺も関連が深いです。だからこそ、トリコファイターになってしまった可能性があるなら、早めに病院にかかってきちんと対処する必要があるんです。

 

【研究紹介】

出光 俊郎,太田 学,山田 朋子,他.アトピー性皮膚炎に併発したトリコチロマニアの小児例.Skin Surgery,22(2),pp.118-120,(2013)

 

今回ご紹介するのは、小学生の男の子の事例で、アトピー性皮膚炎に伴ったトリコチロマニアの症例です。

事例の子は、初診の2か月前からトリコの症状があり、習い事を週に5回やっていたり、学校で友人から意地悪な言動を受けることがあったりとストレスフルな状態であったそうです。きちんとその親子に十分な時間をかけて面談や診察を行い、約7か月後には脱毛班は消失したという事例です。

 

このように、トリコファイターの発症は10歳前後の小学生に多く、次に中学生、そして女性に多いとされています。

今回の事例のように、アトピー性皮膚炎とトリコの関連も指摘されており、トリコの14.8%にアトピー性皮膚炎を合併し、掻痒や精神状態が関与している可能性を述べている研究もあります。

アトピー性皮膚炎とトリコには精神的ストレスが関与するという点において共通の因子があると考えられてはいますが、片方が良くなると、もう一方が悪くなるということも考えられると述べられています。

 

[トリコの予後]

多くは6か月以内に治りますが、難治例も報告されています。一般的には小児の予後は良いとされていますが、成人では人格障害統合失調症などの精神疾患をベースに症状が出ている場合も多く、難治例が多くなるとされています。

 

この研究事例のように、早期に発見され介入することで適切なストレス対処ができ、トリコファイターを卒業できる可能性が高まるのでしょう。

精神医療の分野でも、早期発見・早期治療はいつも唱えられています。早期に治療を開始することで、軽症の段階から治療を始められるので、結果として治療全体に要する期間も短く済み、それに伴って医療費も少なく済み、学校や仕事を休まなければならないかもしれない期間も少なくなり得るので復帰も早まります。

f:id:trichofighter:20210217214623p:plain

放っておいて良いことはないのです。これはトリコに限ったことではないのですね。

 

もしも周囲に気持ちがふさぎ込んでいる人がいたり、あるいはトリコファイターになりかけている人がいたら早めに受診を勧めてあげたいですね。

私は難治例となってしまった例ですが、もちろん発症時、病院には連れて行ってもらえず適切な介入はされていませんでした。(ブログ最初の記事の自己紹介に私のトリコファイターの歴史概要を載せています)

もしかしたら…あの時点で病院に行ったり専門家に出会えていたら…

 

でも子供の力だけでは難しいですよね。小学生ならなお更、「髪を抜いちゃうから精神科の病院に行かせて。」なんて自ら伝えることはまず無理でしょう。周りが気づいてあげないとですね。

学校でもそういうトリコファイターに対する理解が深まってくれるとありがたいですね。